コラム COLUMN

2024年8月28日2024年9月9日

歯がないとどうなる?考えられるリスクと対策方法

  • コラム

歯の喪失は、単なる見た目の問題や口の中の問題だけではありません。患者様の全身の健康、生活の質、そして将来の経済的負担にまで影響を及ぼす可能性があります。

噛む力の低下から始まり、消化器系の問題、認知機能の低下まで広範囲に及びます。

しかし、適切な知識と早期の対応があれば、それらのリスクを大幅に軽減できます。

この記事では、歯の喪失がもたらす意外な影響と、それらを防ぐための効果的な対策をわかりやすく解説します。

歯がない場合の口の中の変化

歯を失うことで、口の中に様々な変化が生じ、全体的な口の健康に深刻な影響を及ぼします。

単に見た目だけでなく、口の機能や全身の健康にも波及する可能性があります。以下、歯がない場合に起こりうる主な口腔内の変化について詳しく見ていきましょう。

噛み合わせの悪化

歯を失うと、噛み合わせが悪化するリスクが高まります。

歯は互いに支え合い、バランスを保っているため、一本でも失うとその均衡が崩れます。

歯を失った箇所に向かって徐々に歯が移動したり、噛み合わさっている対面の歯が徐々に伸びてきたりします。

噛み合わせというのは、非常に絶妙なバランスを保っているため少しでもそのバランスが崩れると様々な不調をきたします。

顎の骨が痩せてきてしまう

歯は歯槽骨と呼ばれる顎の骨に埋まっています。歯が抜けてしまうと、物を噛む時に骨までに刺激が伝わらなくなります。

骨は物理的な刺激がないと、骨がどんどん痩せてなくなっていってしまいます。

このような現象を骨吸収と呼び、骨が痩せてしまうと顔面に影響が出たり、インプラント治療ができなくなったり、最悪の場合骨折をしてしまうリスクもあります。

顎関節症の問題

歯の欠損による噛み合わせの変化は、顎関節にも大きな影響を与えます。適切に噛み合わなくなることで、顎関節に過度の負担がかかり、顎関節症を引き起こす可能性が高まります。

顎関節症の症状には、顎の痛みや開閉口時の違和感、頭痛、耳鳴りなどがあります。

また、顎関節の不調は、首や肩のこりなど、身体の他の部分にも影響を及ぼすことがあります。長期的には、顔の形にも変化が現れ、顔の非対称や老け顔の原因にもなりかねません。顎関節症は生活の質を著しく低下させる可能性があるため、早期の対処が重要です。

関連記事:若いのに歯がない人はやばい?原因と治療法を紹介

歯がない場合の外見と機能への影響

歯の喪失は、単に口腔内の問題にとどまらず、外見や日常生活の機能に大きな影響を及ぼします。見た目の変化、発音の困難、そして食事の問題など、歯がないことによる影響は多岐にわたります。これらの変化は、個人の自信や社会生活にも影響を与える可能性があるため、適切な対処が重要です。

見た目の変化

まず歯が抜けた状態は、前歯部分が抜けてしまった場合はダイレクトに見た目に影響が出てくることになるでしょう。

また奥歯が抜けてしまった場合も、笑顔を見せた際に抜けた部分が目立つことがあります。

歯が抜けて歯並びが悪くなってしまう場合においても、歯並びの悪さは見た目に直接影響します。

また、対合歯(かみ合う歯)がなくなることで、残った歯が徐々に伸びてくる現象も起こりえます。これにより、歯並びのバランスが崩れ、笑顔の際に不自然さを感じさせる原因となることがあります。

発音の問題

歯の欠損は、発音に大きな影響を与えます。なぜならそもそも歯というのは正しく声を出すのに必要な器官の1つだからです。

特に前歯を失ってしまうとサ行やシャ行の発音が難しくなるでしょう。

発音が悪くなることで、コミュニケーションに自信が持てなくなったり、営業などの仕事をしている場合は商談相手に与える印象が悪くなってしまったりとデメリットが多くなります。

食事の問題

歯の喪失は、食事の楽しみや栄養摂取に深刻な影響を及ぼします。まず、咀嚼能力の低下が挙げられます。

歯がない部分では、食べ物を適切に噛み砕くことができず、大きな塊のまま飲み込もうとする傾向が生じます。これは消化器系に負担をかけ、消化不良や栄養吸収の低下につながる可能性があります。

また、食べ物の選択肢が限られることも大きな問題です。硬い食べ物や繊維質の多い食品を避けるようになり、柔らかい食べ物に偏る傾向が出てきます。
これにより、バランスの取れた栄養摂取が難しくなり、長期的には健康状態に悪影響を与える可能性があります。

さらに、食事の際の不快感や痛みも問題となります。残った歯に過度の負担がかかることで、食事中に痛みを感じたり、食べ物が歯の間に詰まりやすくなったりします。これらの不快感は、食事を楽しむ気持ちを減退させ、食欲低下につながる可能性があります。

加えて、食事の際にこぼしやすくなったり、食べるのに時間がかかるようになったりすることで、外食や人前での食事に抵抗を感じるようになることもあります。これは社会生活や人間関係にも影響を与える可能性があり、生活の質の低下につながりかねません。

歯がない場合の全身の健康問題

歯の喪失は、単に口腔内の問題にとどまらず、全身の健康に広範囲な影響を及ぼします。消化器系への負担増加、精神的ストレスの増大、脳機能への悪影響、そして外見の変化など、その影響は多岐にわたります。

これらの問題は、生活の質を大きく低下させる可能性があるため、歯の喪失に対する適切な対処が重要です。以下、具体的な健康問題について詳しく見ていきましょう。

消化器官への負担

歯の欠損は、消化プロセスの最初の段階である咀嚼に大きな支障をきたします。適切に食物を噛み砕くことができないため、大きな塊のまま食べ物を飲み込むことになり、これが消化器官に過度の負担をかけます。

胃や腸が通常以上の働きを強いられ、消化不良や栄養吸収の低下を引き起こす可能性があります。

また、咀嚼は唾液の分泌を促す重要な刺激です。唾液には消化を助ける酵素が含まれているため、咀嚼不足による唾液分泌の減少は、消化プロセス全体に悪影響を及ぼします。

これにより、胃酸の過剰分泌や腸内細菌叢のバランス崩壊など、様々な消化器系の問題が生じる可能性があります。

ストレスと精神的影響

歯の喪失は、予想以上に大きな精神的ストレスをもたらします。まず、食事の楽しみが減少することで、日常生活の質が低下します。

また、咀嚼は「幸せホルモン」と呼ばれるセロトニンの分泌を促進する効果があります。歯がなく十分に咀嚼できない状態では、このセロトニンの分泌が減少し、気分の落ち込みや不安感が増大する可能性があります。

加えて、外見の変化や発音の問題による社会的な不安も、精神的ストレスの一因となります。

脳への刺激減少

咀嚼は、脳への重要な刺激源です。歯を使って食べ物を噛むという行為は、口腔内の様々な感覚受容器を刺激し、大量の感覚情報を脳に送ります。この刺激は、脳の広範囲な領域を活性化させる効果があります。

歯の喪失により咀嚼機能が低下すると、この脳への刺激が大幅に減少します。特に、海馬と呼ばれる記憶形成に重要な脳領域への刺激が減ることで、認知機能の低下リスクが高まる可能性があります。実際、研究では咀嚼機能の低下と認知症リスクの増加に関連性が見られています。

また、咀嚼は脳血流を増加させる効果もあります。脳血流の減少は、長期的には脳機能の低下につながる可能性があるため、咀嚼機能の維持は脳の健康にとって重要な要素といえます。

歯がない場合の治療への影響

歯の喪失を放置すると、将来の治療に大きな影響を及ぼします。主に治療費の高騰と治療期間の長期化という二つの大きな問題が生じます。単に経済的負担を増すだけでなく、患者の生活の質にも大きく影響を与える可能性があります。

治療費が高くなる

歯の欠損を放置すると、治療費が予想以上に高額になる可能性が高まります。時間の経過とともに口腔内の状態が悪化し、より複雑な治療が必要になるためです。

例えば、歯が抜けた部分の隣接歯が傾斜してしまった場合、単に欠損部分を補うだけでなく、傾いた歯を元の位置に戻す矯正治療が必要になることがあります。

矯正治療は通常保険適用外であり、部分的な治療でも数十万円の費用がかかる可能性があります。

さらに、長期間歯が欠損したままだと、その部位の顎の骨が痩せ、歯肉も退縮する傾向があります。

この状態でインプラント治療を希望する場合、骨量が不足しているため、骨造成手術が必要になることがあります。この追加の手術は治療費を大幅に押し上げる要因となります。

また、一本の歯の欠損を放置すると、周囲の歯にも悪影響が及び、複数の歯の治療が必要になることもあります。当初予想していた以上に治療の範囲が広がり、結果として総治療費が膨らむことになります。

治療期間が長くなる

歯の欠損を放置すると、治療期間が大幅に延長される可能性があります。時間の経過とともに口腔内の状態が変化し、より複雑な治療プロセスが必要になるためです。

まず、歯が欠損した状態が長く続くと、周囲の歯が傾いたり、対面の噛み合わせる歯が伸びたりするなど、口腔内のバランスが崩れていきます。このバランスを元に戻すには時間がかかります。

例えば、傾いた歯を元の位置に戻すための矯正治療が必要になった場合、数か月から場合によっては1年以上の時間を要することがあります。

また、長期の歯の欠損により顎の骨が萎縮した場合、インプラント治療を行う前に骨増生手術が必要になることがあります。

手術後、骨が十分に形成されるまで数か月の治癒期間が必要となり、全体の治療期間が大幅に延長されます。

さらに、歯の欠損を放置することで周囲の歯や歯肉の状態も悪化しやすくなります。これらの問題に対処するために、本来の欠損補綴治療の前に、周囲の歯の治療や歯周治療が必要になることも少なくありません。これらの前処置にも相応の時間がかかります。

歯がない場合の治療法

歯の喪失に対する治療法には、主にインプラント、入れ歯、ブリッジの3つの選択肢があります。各治療法にはそれぞれ特徴があり、患者の状態、予算、希望に応じて最適な方法を選択することが重要です。

インプラント

インプラント治療は、失った歯の機能と外観を最も自然に近い形で回復する方法です。チタン製の人工歯根を顎の骨に直接埋め込み、その上に人工の歯冠を装着します。

インプラントの最大の利点は、天然歯に近い感覚と機能・審美性を得られること、他の歯を削ったり抜いたりする必要がないことです。固定式であるため、安定した咀嚼力が得られ、発音も自然になります。

歯科医師や歯科技工士の技量によって天然の歯に見えるほどの審美性を獲得できることもインプラントの特徴です。

また、隣接する健康な歯を傷つけることなく、単独で機能するため、周囲の歯への負担が少ないのも特徴です。

審美性においても優れており、天然歯と見分けがつかないほど自然な仕上がりが可能です。長期的には骨の維持にも貢献し、顔の形状を保つ効果もあります。

一方で、インプラント治療には外科的処置が必要で、治療期間が長くなる傾向があります。

また、保険適用外のため、費用が比較的高額になります。症例によって対応できるか否かや長期的にインプラントが使用できるかが変わってくることもあります。

当院のインプラント治療は、他院でも断られた方でも対応できる場合があります。お気軽にご相談ください。

入れ歯

入れ歯は、失った歯の機能を回復する最も一般的な方法の一つです。一部の歯が失われている場合は部分入れ歯、全ての歯が失われている場合は総入れ歯を使用します。

入れ歯の大きな利点は、比較的短期間で作製できることと、一般的に保険適用となるため、経済的な負担が比較的少ないことです。取り外しが可能なので、清掃が容易で口腔衛生の維持がしやすいという利点もあります。

自費診療の入れ歯では、保険の入れ歯よりも違和感が少なく、見た目も自然な仕上がりが可能になっています。

しかし、入れ歯にも課題があります。
まず部分入れ歯の場合、隣接する健康な歯に金属製の鉤(かぎ)と呼ばれる部分を装着して固定するのですが、その鉤がかかる歯に負担がかかってしまいます。

また、装着当初は異物感を感じやすく、慣れるまでに時間がかかることがあります。その上、咀嚼力は天然歯に比べると劣り、長期使用による顎の骨の萎縮も懸念されます。

さらに、取り外しができるということは取り外しての日々の手入れが必須になり手間を感じるようになることや、金属部分が見える場合の審美性の問題も考慮すべき点です。

ブリッジ

ブリッジは、失われた歯の両隣の健康な歯を支台として、人工歯を固定する治療法です。橋を架けるように人工歯を固定することから、この名前が付けられています。

ブリッジの利点は、固定式であるため安定した咀嚼力が得られ、装着感も良好な点です。また、治療期間が比較的短く、保険適用の選択肢もあるため、経済的な負担を抑えられます。

セラミックブリッジの場合、審美性も高く、特に前歯部では自然な見た目を実現できます。

しかし、ブリッジにも考慮すべき点があります。最大の課題は、健康な隣の歯を削る必要があることです。

これにより、将来的に支台歯にストレスがかかり、トラブルが生じる可能性があります。また、ブリッジ下部の清掃が難しく、虫歯や歯周病のリスクが高まる可能性があります。

支台となる歯の状態によっては、ブリッジ治療が適さない場合もあります。例えば、隣接する歯が大きな虫歯や歯周病に罹患している場合、ブリッジの支台として機能しない可能性があります。

関連記事:「歯がないから歯医者に行くのが恥ずかしい」と感じている方へ

まとめ

歯の喪失は、口腔内の変化から始まり、全身の健康問題、さらには心理的な影響まで、その範囲は広範に及びます。

まず、歯がないことで噛み合わせが悪化し、残存歯に過度の負担がかかります。歯の傾きや対面の歯が伸びてきてしまうこと、さらには顎関節症のリスクが高まります。外見的にも、顔の輪郭の変化や老け顔になるなどの影響が現れます。

さらに重要なのは、全身の健康への影響です。消化器官への負担増加、栄養摂取の問題、脳への刺激減少による認知機能への影響など、歯の喪失は単なる口腔内の問題にとどまらず、発音の困難さを助長しストレスの増加など、社会生活や精神面への影響も見逃せません。

これらの問題に対処するため、インプラント、入れ歯、ブリッジなどの治療法がありますが、早期の対応が重要となります。歯の喪失を放置すると、将来的に治療費の高騰や治療期間の長期化といった問題に直面する可能性が高くなります。

したがって、歯の健康維持と早期の治療介入が非常に重要です。定期的な歯科検診、適切な口腔ケア、そして問題が生じた際の迅速な対応が、健康的な生活を維持するための基本となります。

奥田幸祐

監修者

おくだ歯科 院長

奥田 幸祐(オクダ コウスケ)

プロフィール

歯科医師として歩みを始めたときから、インプラント治療における様々な症例に対応し、他院で治療ができなかった難症例も数多く治療してきました。自身が日々研鑽を積むだけでなく、多くのドクターにインプラント治療の指導も行っています。この豊富な経験と実績で、皆様に寄り添い難症例にも対応してまいりますので、お悩みの方は是非一度当院にご相談ください。

経歴&職歴

  • 平成17年:朝日大学 歯学部 首席で卒業
  • 平成17年〜24年:付属病院、開業医勤務
  • 平成25年:おくだ歯科・矯正歯科 可児市広見にて開業
  • 平成27年:医療法人化 医療法人ALESおくだ歯科・矯正歯科
  • 平成27年:厚生労働省認定 歯科医師 臨床研修指導医 取得
  • 令和5年:日本顎咬合学会 嚙み合わせ認定医 取得
  • 令和5年:特定非営利活動法人 放射線学会 CBCT認定医 取得